面白い画像と後味の悪い話 4

私はマンションのフロント係をやっている。
このマンションは入り口にも鍵がかかってるから、
住人以外自由に出入りできないし、
仕事なんて実はほとんどない。
私のマンションではフロントに落とし物箱を置いていて、
住人はそこに拾ったものを入れていく。
鍵だの傘だのゴミだの、時には写真とか手紙も入っている。
それの管理も、仕事といえば仕事だ。

手紙といって思い出すのは、元住人の田中さんのことだ。
半年くらい前、朝出勤した時に箱の中を見ると、封筒が入ってた。
よく見てみると、名前と部屋番号が書いてあった。
106号の田中って、あの綺麗なOLさんの部屋じゃないか、と思って
その部屋のドアのポストに入れておいた。
彼女はいつも私に挨拶してくれるし、
前にも書類の落とし物をしたりで、
意外と抜けてるところがあるみたいで、少し微笑ましい。
数日後、また同じような田中さん宛の封筒が落とし物箱に入ってて
不思議だったのを覚えている。
それから田中さんは挨拶もなく、すぐに引っ越してしまって、
とても残念だった。

それに比べて、今フロントに一番近い101号の部屋に住んでる男は、
無表情なうえに無愛想だし、
110号のおばさんは、
「角部屋なのに生ゴミ臭い」って文句を何故か私に言うし、
その隣に住んでる若い女の子は、
引き籠もりはじめて家賃も数か月滞納しているし。
彼女に関わり合いのある1階にはまともな住人がいやしない。
なんで田中さんは引っ越してしまったんだと、
ため息が出るばかりの今日この頃。



男はあるアイドルの女の子に夢中だった。
安月給のため、生活に余裕はなかったが、
使える金は全て彼女につぎ込んでいた。
写真集やDVDの発売イベントには必ず顔を出し、
その場でありったけの金を使うことが男の日常だった。

その日は彼女のバースデーイベントだった。
当然参加した男がお手製の縫いぐるみの入ったプレゼントを抱えて、
握手待ちの列に並んでいると、
彼女のマネージャーが話しかけてきた。
「いつもありがとうございます」
毎回イベントに顔を出し、写真集などを数十冊単位で購入していく男は、
すっかり顔馴染みになっていた。
「彼女もほんと喜んでるんですよ」
そう言われて、内心嬉しくてたまらない男。
ようやく握手する番になった。
「わぁ！ プレゼントありがと〜！」
目の前でにっこりと笑いながら喜んでいる姿に、
男はこの上ない幸せを感じていた。

数日後、アイドルの女の子は自宅前の路上でメッタ刺しにされて殺された。
犯人はこの男だった。
目撃証言から割り出され、抵抗することもなく逮捕された。

「なぜあんなことをしたんだ」
刑事からの追求に、男はボソリとつぶやいた。

「ずっと暗かったから」



無線は趣味として根強い地位を占めているのはご存知だろうか。
いろんな人がいろんな周波数で通信をしていて、
利用できる周波数一覧が本になって出版されている。
趣味として実際に電波を送信している人もいるが、
僕はただ流し聞きするのが好きだ。
最近の無線機は何かが聞ける周波数を自動で走査して
探し続けてくれる機能がついている。
僕のお気に入りは、そうやって無線機が選んだ周波数を何時間も録音して
mp3ファイルにしておいて、仕事の最中に作業用BGMとして使うことだ。
トラックや警察、船、個人が趣味でやってるラジオ、
あと外国語のワケの分からない会話など、いろんなモノが聞こえてくる。
話の内容は分からなくても、電車の雑音の中の方が集中して読書ができる、
というような感じで時間を忘れて作業を進めることができる。

ある日、いつもの様にヘッドホンをつけて、録音していたmp3を再生した。
お経が流れてきたのでびっくりした。
mp3再生ソフトのシークバーを2時間分くらい動かした。
またお経が流れていた。
調べてみると、4時間17分、ずっとお経が録音されていた。
気味が悪くなったので、そのmp3ファイルは削除して、
その日はBGMなしで作業した。

夜、家に帰って、無線と録音機器をセットして布団の中に入った。
目を閉じて、仕事中に聞こえたお経のことを思い出して怖くなった。
怖くなったので、布団を飛び出て、
無線機と録音機器を外してケースにしまって、
電気をつけてまた布団にもぐりこんだ。

ちなみに無線はだいたい会話の背後にノイズが入るのだが、
あのお経。
お経の他にまったく雑音が入ってなかった。
まるで......